わからないことがわかるようになる経験

子どもの頃、誰しもがわからないことを素直に大人に聞いていたはずだ。その答えに納得したかはわからないが、少なくとも答えにたどり着いたら嬉しいだろうし、それが今の成長につながっている。わからないことがわかるのが楽しかった。

しかし、いつからだろう。わからないことには興味を持たなくなり、見向きもしなくなったのは。あるいは、勝手な思い込みや思考停止のレッテル貼りでわかった気になってしまったのは。

特に他人のことをわかろうとするのは難しい。お互いわかり合おうとしてコミュニケーションを取るけど、相手のすべてを理解するなんて無理だし、人生や人格のすべてを理解したいと考える人は稀だろう。そもそも自分のことさえ理解するのが難しいというのに。

だけど、「わからない」ということがわかり、自分なりに噛み砕いてわかった気になるということこそ、現代社会に生きる私たちの処世術なのだろう。世の中は危険なことがごまんとあって、どこに地雷が埋まっているかを慎重に探っていくしかない。自分だっていつも慎重に生きている。それなのによく地雷を踏み抜いてしまう。もう満身創痍だ。

 

ジブリ映画最新作『君たちはどう生きるか』は、齢八十を過ぎた宮崎駿監督による自伝的ファンタジー作品てあり、大家としての集大成だ。それだけに気合の入れようは尋常ではなかった。人生を賭したクリエイターの魂をひしと感じた。内容も非常に面白かった。感動できたし満足度は高い。題材となった小説を読んでいれば、もっと理解が深まったかもしれないので、機会があれば再挑戦したい。

一方、ネットのレビューでは批判的な意見も散見される。確かに語られない部分が多いせいで、置いてきぼりになることがあった。キャラクターの行動や思考に理解が及ばないこともあった。しかし、すべてを語らないことがこの映画の最大の魅力なんじゃないかとも思う。そしてそこにこそ、監督自身の人生観が表れているのではなかろうか。

そもそも事前プロモーションをいっさいしないという戦略だった。観る前はわからない。そして観た後もわからない。たとえ何もわからないとしても、まったく観ず何もわからないより、「わからない」という経験をしたほうがよっぽど価値があるだろう。「わからないことがわかる」とはそういう意味だ。

とりあえず観てほしい。できれば前情報なしで、変な先入観はもたずに。だけど一つだけ内容に関して言えるとしたら、作中鳥がいっぱい出てくる。だからもし途中で理解できなくなったら鳥が何羽出てきたか数えてみよう。そのうち前のめりになって観ることになるはず。

映画の楽しみ方は自由だ。君たちはどう観るか。ぜひ感想を語り合いたい。
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